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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)136号 判決 1977年11月24日

原告 金田昭夫 ほか一名

被告 豊島税務署長

訴訟代理人 竹内康尋 鳥居康弘 ほか二名

主文

1  本件訴えをいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告が昭和五〇年七月一六日付でした原告金田昭夫の昭和四九年分所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の処分を取り消す。

2  被告が昭和五〇年七月一六日付でした原告金田百子の昭和四九年分所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の処分を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。との判決

二  被告

1  本案前の申立て

主文と同旨の判決

2  本案についての申立て

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。との判決

第二原告らの請求原因

一  原告らは、昭和五〇年四月一八日被告に対し原告らの同四九年分所得税についての各確定申告に係る課税標準及び税額につき更正をすべき旨の各請求をしたところ、被告は、原告らに対して同五〇年七月一六日付で更正をすべき理由がない旨の各処分(以下「本件各処分」という。)をした。

二  原告らは、原告らが金田ミツイから取得した金一〇〇〇万円につき租税特別措置法第三五条第一項の規定の適用を認めるべきものとして右各更正の請求をしたのにかかわらず、本件各処分は、右規定の適用がないとしてされたもので違法であるから、原告らは、本件各処分の取消しを求める。

三  本件各処分について原告らのした各審査請求に対する各裁決書謄本は、昭和五一年六月一七日原告ら方に送達され、原告金田百子(以下「原告百子」という。)は同日、同金田昭夫(以下「原告昭夫」という。)は翌一八日右各審査請求に対する裁決があつたことを知つた。そして、出訴期間については初日を算入して計算すべきではないから、昭和五一年九月一七日に提起した本件訴えは、いずれも出訴期間内に提起された適法なものである。

第三被告の本案前の申立ての理由及び請求原因に対する認否

一  本案前の申立ての理由

1  原告百子の訴えについて

行政事件訴訟法第一四条第四項を適用して取消訴訟の出訴期間を計算する場合には、法令の用語例に従い「裁決があつたことを知つた日」を初日として、これを期間に算入して計算すべきであるところ、原告百子は、昭和五一年六月一七日裁決があつたことを知つたのであるから、同年九月一七日に提起された原告百子の訴えは、出訴期間を徒過した不適法なものである。

2  原告昭夫の訴えについて

右「裁決があつたことを知つた日」とは、裁決があつたことを現実に知つた日のみならず、裁決書謄本が当事者の住所に送達されあるいは当事者の代理人として事務処理する立場にある者に交付されその支配内に入ることなどによつて、社会通念上相手方においてこれを了知し得べき状態に置かれたときは、裁決があつたことを知つたものと解すべきである。

ところで、原告らは、夫婦としての共同生活を営んでいるのであつて、原告百子は、その立場上原告昭夫が不在の際には同原告の代理人として同原告あての郵便物を受領する権限を与えられていたものと認められるところ、原告百子は、昭和五一年六月一七日原告昭夫あての裁決書謄本を受領したものであるから、原告昭夫は、同日裁決があつたことを了知し得べき状態に置かれたものというべきである。

したがつて、原告昭夫は、右同日裁決があつたことを知つたものと解すべきであるから、同年九月一七日に提起された原告昭夫の訴えは、出訴期間を徒過した不適法なものである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因一の事実は認める。

2  同二の事実は認めるが、本件各処分が違法であるとの主張は争う。

3  同三のうち、原告昭夫が昭和五一年六月一八日に至り審査

請求に対する裁決があつたことを知つたことは否認し、その余の事実は認め、その主張は争う。

第四証拠関係<省略>

理由

一  本件訴えは出訴期間を徒過して提起されたものであるか否かについて判断する。

1  原告百子の訴えについて

原告百子が昭和五一年六月一七日に同原告に対する本件処分につき同原告のした審査請求に対する裁決があつたことを知つたことは、当事者間に争いがなく、同原告の本件訴えが同年九月一七日に提起されたことは、本件記録上明らかである。

そして、行政事件訴訟法第一四条第一項、第四項を適用して出訴期間を計算する場合には、裁決があつたことを知つた日を初日とし、これを期間に算入して計算すべきものと解するのが相当である。

そうすると、原告百子の本件訴えは、出訴期間を徒過して提起されたものといわなければならない。

2  原告昭夫の訴えについて

原告昭夫に対する本件処分につき同原告のした審査請求に対する裁決書謄本が昭和五一年六月一七日に同原告方に送達されたことは、当事者間に争いがなく、右争いのない事実に<証拠省略>を合わせると、原告昭夫は、第十日本交通株式会社に勤務してタクシー運転手をしており、昭和五一年六月一七日は午前八時以前に出勤し、翌一八日午前二時ころ勤務を終えて午前七時ないし八時ころ帰宅したこと、原告昭夫あての右裁決書謄本は、同月一七日原告百子に対する本件処分につき同原告のした審査請求に対する裁決書謄本とともに配達証明郵便の方法により送達されたこと、右二通の謄本は、直接に又は同日中に原告らの子を介して原告昭夫の妻原告百子が受領し、同原告あての裁決書謄本についてはこれを開披してその内容を了知したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、原告昭夫の妻原告百子は、その立場上原告ら方の家事一切を管理し、原告昭夫の不在中は肩原告のために同原告あての郵便物を受領する権限を有していたものと認めるべきであり、このような権限を有する原告百子において右認定のとおり原告昭夫あての裁決書謄本を受領し、社会通念上裁決があつたことを知り得べき状態に置かれた以上、原告昭夫が裁決のあつたことを知つた場合と同視するのが相当である。したがつて、原告昭夫は、昭和五一年六月一七日に裁決があつたことを知つたものというべきである。

原告昭夫の本件訴えが同年九月一七日に提起されたことは、本件記録上明らかである。

そうすると、原告昭夫の本件訴えは、前記1と同様に出訴期間を徒過して提起されたものといわなければならない。

二  よつて、本件訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三好達 菅原晴郎 成瀬正己)

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